━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ □■学会報告■□ 第10回 日本うつ病学会総会 「多様化するうつ病の今とこれから」 (前編) 2013/7/19・20 in福岡県北九州市 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今月と来月のメルマガは、7月に開催された日本うつ病学会で私が聴講した講演内容を 申送りさせていただきます。<表記→ ○=抄録集からの抜粋 ・=藤井メモ> *会長講演 「多様化したうつ病の病態と職場復帰」 産業医科大学医学部精神医学 中村 純教授 ○うつ病や双極性障害と診断された人は、10年前に比べると約2.5倍に増加し、100万人 程度と報告されている。 ○増加したうつ病の多くは、厳密にいえば、従来の典型的なうつ病ではなく、適応障害に よるうつ状態が多いと推定され、うつ病の治療は薬物療法だけでなく精神療法の果たす役 割も増大してきている。 ○大学病院における外来診療の結果では、うつ病のために休職した人が回復して6か月間 復職継続できた人はおよそ4割、復職後1か月以内に再休職した人も4割程度あった。 ○現在、復職決定をするためには、どの程度の準備が必要かということは産業医学上の喫 緊の課題となっているが、復職決定時に各種認知機能検査、SASS、秋山らが開発した職 場復帰準備性評価シートなどで評価した結果、認知機能検査では何ら明確な結果は得られ なかったが、SASSでは仕事の裁量が大きい人、職場復帰準備性評価シートでは家族との 関係が良好で他人との関係が良好な人、さらに戸外での活動が十分な人は、復職が継続で きていたことが明らかになった。 ・神経症的うつや適応障害のうつ、軽症のうつや難治性のうつが増えている。 ・メランコリー型のうつは増えていない。 ・生き方の問題、性格や対人関係の問題がある。 ・軽症うつへの対応は、会社の規律を示し、教育を施す必要がある。 ・企業が人格を育成する時代。 ・病気の寛解と復職には解離がある。 ・転職回数が多い人は、再休職に至りやすく復職がうまくいかない傾向がある。 ・病因は職場だけでなく、家庭の問題もある。 *記念講演 「今後のうつ病対策:研究と社会的対応について」 九州大学大学院医学研究院精神病態医学 神庭重信教授 ○社会問題となっているうつ病は、職域での患者の数の多さではないかと思う。職場での メンタルヘルス検診の義務化が検討されているのもこのためであろう。 ○今後は、産業医を含めた産業現場と精神科医療の一層綿密な協働が、コメディカルを含 めたチームとして効率的に動かなければならない。 ○提案の一つとして、うつ病治療センターの全国展開を挙げておきたい。これは、がんセ ンターの構造にヒントを得たものである。うつ病の診断と治療が全国で、同じ水準で行わ れる必要がある。また、難治うつ病の治療に特化した施設も必要である。 ・リワークは日本独特の取組み方。 ・言語の無い所で育てると言語は育たない。環境要因も内因性に多大に影響する。 ・これからのうつ病予防支援は、関係者のネットワークの強化が必要。 ・全国にがんセンターがあるように、うつ病センターを全国展開して、均一の治療をして いく必要がある。 *シンポジウム 「児童青年期の気分障害とコモビディティ」 北海道大学大学院保健科学研究院生活機能学 傳田健三教授 ○児童・青年期の気分障害の臨床的特徴について述べる。とくにコモビディティとの関係 について自験例を紹介しながら解説したい。 ○うつ病性障害の有病率は、児童期では2.8%、青年期では5.9%と見積もられている。 ○臨床症状は成人のうつ病と同じ症状が出現するが、児童の場合成人と比較すると、イラ イラ感、社会的引きこもり、身体愁訴などが特徴的である。 ○児童・青年期のうつ病は、うつ病単独で出現するよりも、他の精神障害と併存して出現 することが多い。併存障害としては、児童期では破壊的行動障害、ADHD、不安障害が合 併しやすく、青年期では破壊的行動障害、ADHD、不安障害、物質関連障害、摂食障害が 合併しやすい。 ○児童・青年期のうつ病性障害の経過は、1年以内に軽快する症例が多いが、数年後ある いは成人になって再発する可能性が高いという報告が多い。 ○また近年、児童期発症のうつ病は青年期発症のうつ病に比べて、発症頻度は少なく、男 子優位を示し、他の精神障害(特にADHD、反抗挑戦性障害、素行障害)を併存すること が多く、家族機能の障害(虐待など)と強く関連し、成人のうつ病へ移行する可能性が少 ないと考えられるようになった。 ○児童・青年期の双極性障害の臨床像は、1,うつ症状と躁症状のきわめて急速な交代、 2,うつ病相と躁病相が明瞭に区別しにくく、双方の症状が混在する多彩な病像、3,他の精 神障害、とくにADHD、反抗挑戦性障害、素行障害などと併存しやすい、という3点でま とめることができる。 ・子供のうつ病を診たら発達障害がないか疑うべき。 ・子供のうつは大人よりも環境要因が大きい。 ・青年期のうつ状態は、成人になってうつ病を発症する可能性が高い。 *シンポジウム 「若い世代の心性に即した診断と治療を考える」  筑波大学社会精神保健学 斎藤 環教授 ○長く「ひきこもり」の臨床に関わってきた立場から考えるなら、「ひきこもり」を診察す る際、暫定的に「社交不安障害」といった仮の診断のもとで治療を開始し、治療関係が深 まるとともに、適宜診断に修正を加えていく、というスタイルは、現代のうつ病臨床にも 十分に応用可能ではないかと考えている。 ○「ひきこもり」が診断ではなく状態像に対する名前であるように、「うつ」もさしあたり 診断以前の状態像としてとらえ、治療に対する反応を確かめながら診断の精度を高めてい くといった考えである。 ○まず「診断ありき」という発想に固執することは、「うつ病」がなんらかの本質を備えた カテゴリーであるという考え方への固執にほかならない。まして彼らの存在を、軽症であ るがゆえに治療の必要性を認めないとするパターナリステッィクな姿勢は、早期発見の原 則に反するばかりか、援助希求行動を抑圧することで、重篤化や自殺のリスクを高めてし まいかねない。 ○今必要なことは、「うつ病」の診断のあり方を大幅に見直すと共に、軽症事例に対する治 療的対応においてもファーストラインにSSRIを想定するのではなく、まず環境調整や運 動療法、生活指導や支持的カウンセリングなどを第一に考えるといった、大幅な方向転換 ではないだろうか。 *シンポジウム 「インターネットCBTを用いた職域メンタルヘルス教育」  コニカミノルタ梶@森まき子先生 ○認知行動療法(CBT)は、これまで主に個人精神療法として実施されてきたが、その安 全性と応用範囲の広さから様々な分野で低強度のCBTが展開されるようになっている。 ○職域におけるストレスマネジメント対策の効果を比較したメタ解析では、最も効果的な 個人向けの介入は、CBTのトレーニングであると報告されている。わが国でもすでに 休職中の労働者に対する集団CBTの効果が認められている。 ○我々は職域でも実施可能なインターネットCBT(I−CBT)プログラムを用いた研修を 実施し、その効果を調べた。 ○抑うつ・不安を有意に改善させた。このことは、I−CBTを用いた研修が、職域におけ るメンタルヘルス不調者への介入方法として有効であることを示唆している。 ○考え方のクセの理解やストレス対処力に対する主観的な評価については有意に改善して いたことから、本プログラムは、ストレスマネジメントに関する自己効力感を向上させる 効果があることが示唆された。 ・職域では、人と仕事の適応をどうしていくか、がメインとなる。 ・変化に対応する能力アップの為のセルフケアが求められている。 ・職域では就労できるレベルの人達で軽症が殆どなので、抑うつ状態の増悪を予防するこ とが目的となる。 ・I−CBTを続けている人は抑うつや不安を改善させ、その効果が継続的に続くことがわ かった。ストレス対処へ自信がつくようだ。 ・I−CBTは、ストレスマネジメント方法として有効。ストレス対応の引出しのひとつと して活用できる。