━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━            □■□ 2007 August □■□   〜現代のうつ病とうつ状態〜  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━      *すさまじい猛暑でしたね。暑い、熱いの毎日、熱中症は回避できましたか。 そんな中国内全拠点のメンタルセミナー依頼をいただき、全国行脚をしてい ました。経費のかからない自然のデトックスで、滝のように流れてくる汗に、 水分補給が追いつかない感じでした。鈴虫の音が聞こえてきたから、ようや く終焉になるといいのですが。 *職場では、うつ病とうつ状態の混同による、現場対応の混乱が見られます。 また、古典的なうつと現代のうつにも明確な違いがあります。素人の方々に とっては訳がわからないのは当然です。私自身も今年6月末学会での発表を 受けて7月からのセミナーではこの内容を追加して話していると、管理職の 方々は合点がいったのか深く頷いて下さいます。中には、「うつ?どうも違 うよな、と思っていたモヤモヤがようやくすっきりした。先生、しっかり言 っていかないと現場は混乱するよ。」と教示されたこともあります。まった く同感です。現場で実際に社員を見ている方々は、医学的な理論はよくわか らなくてもよくよく実感していてわかるものです。我々は少しでも現場で対 応に苦労している方々を、最新の充分な知識を持って支えていかないといけ ない、と日々痛感しています。 *多くの管理職研修で最初に学ぶうつ病というのは、メランコリー型うつ病で す。既にご存知の通り、真面目で几帳面で責任感が強く、頼まれたらなかな かnoとは言えずに抱え込んでしまい、周りに気を遣うタイプです。症状は、 ほとんどいつも抑うつ気分が続き、中高年に多く見られるタイプです。  ところが今急増しているのは若年に多く見られる、気分変調症と呼ばれるう つ病です。以下、文藝春秋出版、田中辰巳・海原純子共著「企業 こころの 危機管理」から引用させていただきます。 ○一方最近では、「ディスティミア」と呼ばれる気分変調症が若い人を中心に 増加していることも知っておいてほしいと思います。ディスティミア気分変 調性障害は、いわゆるうつ病とよく似ていますが、同じものではありません。 頑張り屋でがまん強い人がうつ病に陥るのに対し、ディスティミアは自責感 よりむしろ人のせいにする傾向が強い人に起こります。憂うつな気分がほと んど毎日二週間以上続き食欲減退や過食、不眠、気力低下、集中力低下、決 断できない、疲労感などが起こります。しかし、うつ病のように絶えず憂う つというわけではなく、やや調子のよい日が数日続いてまた落ち込むなど波 があり、何にも楽しいことはない、と不平を述べるが日常生活はなんとかや っていける、という状態です。ディスティミアという概念は1980年代、レバ ノン人の医師H・S・アキスカルによって研究された概念ですから比較的新 しい疾病概念で、以前は抑うつ神経症と呼ばれていたものに当たります。 こうした気分変調性障害ディスティミアの人の約半数に人格障害が伴うと言 われていて、つまり一見同じようにうつに見えても、実際はうつ病とは異な るうつ状態を示す人がいることもあるのです。こうしたディスティミアの人 たちは体調が悪いことを理由に会社を休んでも罪悪感はあまりなくて、休み がとれたからとハワイなどに行き真っ黒になって帰国する。さてそれでは元 気で仕事に出るかというとそうではなくて、再び出社すると具合が悪いなど というパターンを繰り返すこともあるのです。こうした仕事ぶりのために周 囲と人間関係のトラブルが起きてしまうこともありますし、上司としてはど のように関わっていいか困ってしまうこともしばしばです。いわゆるうつ病 の人の場合、きちんと休んで治療を受けると九割ほどの人が回復すると言わ れているのに対して、ディスティミアの人たちは薬物療法もその三分の一の 人くらいにしか効果がない。今流行の認知行動療法も現場の意見を聞くと、 なかなかむずかしいという声があがっています。 *うつ病というのは診断名で、うつ状態とは状態像で診断名ではなく、違いま す。うつ病になると気分が抑うつ状態になりますが、その状態に陥るのはう つ病だけではないのです。適応障害によって起きるうつ状態もあれば、人格 障害に伴って起きるうつ状態もあるし、前述した気分変調症でも起きます。 職場で拝見する主治医からの診断書には、うつ病よりは抑うつ状態の方がは るかに多く見られます。 *今年6月末の日本産業精神保健学会で大阪樟蔭女子大学大学院の夏目誠教授 は、うつ病とうつ状態の理解と望ましい対応法についてご教示下さいました。 うつ病と職場不適応症=出社拒否・拒否症の鑑別は重要であり、またうつ病 と肥大化した自己愛の傷つきの鑑別にも言及されました。(詳細は学会資料 を参照願います) 職場不適応症の場合は、抑うつ気分がうつ病のように生活全般にいつも発現 するのではなく、職場や仕事の場面で強く部分的に発現し、自己嫌悪から自 分が情けないと思い2次的なうつ状態である。こころのエネルギーはうつ病 のようになくなっているのではなく、それなりにあって、就業への不安や恐 怖、焦燥が強い。うつ病には抗うつ剤の効果はあるが、職場不適応症の場合 あまりなく、精神安定剤の方が効果がある。休日は楽になり好きなことはで きる。肥大化した自己愛が傷ついた場合に生ずるうつ状態というのは、少し でもプライドを傷つけるような言動に対して過敏に反応してしまい、自己愛 の傷つく部分のみ抑うつ気分が発現して、背景には性格障害もあり得る。抗 うつ剤の効果は無く、むしろ悪化する場合があり、休日は楽になり、好きな ことはできる。 *以上のような現代のうつ病や逃避型や自己愛型うつ状態の方々に対する復職 支援は、MDA理事の山口律子氏の教示同様、私は理に適った段階的なスパ ルタでナビしています。焦らず、でも、のんびりはダメです。無理はさせな い、けど、本人が出来る可能な努力=自助努力はしてもらうように指導して います。多くの若年の患者さんを見ていると、3食は摂取していない(朝食 は幼稚園以来食べてないとか)深夜までパソコンをしていてAM2:00や3:00 頃に寝る等々、生活リズムが確立されていない方が殆どです。これでは心療 内科の患者に当然なるはず、の生活をしているのです。なのに、ひとたび罹 患してしまうと今度は薬も指示通りに飲まずに通院も中断、生活改善もせず に、嫌なものから逃げたい、他責をして自分が傷つきたくない、等々と。本 人に人としての基本的な躾教育をしたり、時には親を呼んで指導する場合も あります。更に、多少の不調の状態でも仕事ができる状態を増やすようにナ ビしています。ストレスのない環境など無いのですから、ストレス耐性を強 くしていくしかないのです。 復職支援はオーダーメイド、が私の持論ですが、主治医と連携を取りながら、 疾病の本質をしっかりとつかんだ、的を得た理に適った対応が、今現場では 早急に求められているのです。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━