━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          □■□ 2006水無月のコラム □■□  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *那須の山々の新緑が、日増しに濃い緑に映り変わっています。少し蒸し暑くなってき  ましたが、でも肌寒い時もあったりで、風邪などひいていませんか。  国内移動の時間は、私にとって読みたかった本の絶好の読書タイムで、何冊も鞄に詰  めこんでいきます。愛読書の中に山下景子さんの“美人の日本語”があるのですが、  今更ながら日本語の素敵さや新鮮さを発見させてくれる本です。そんな素敵な日本語  でPC文字ではない、自分の文字で書いた手紙を送りたいものです。 *顧問先への訪問も2年・3年を過ぎていくと、精神疾患の社員達が回復していく現場  に立ち会うことが多々あります。「うつが良くなってきました、その後の復職も順調で  す」「ひどい適応障害が回復してきて、普通の生活や仕事ができるようになりました」  等々。この頃は私も年を経ったせいで涙腺が緩んでいるのでしょうか、嬉しくて涙が  止まらない場面が多くあります。数年前の一番辛い時期を共有しているので、あんな  に辛そうで大変だったのにこんなに元気になって、と思うと感涙が絶えません。  心底本当に嬉しいことです。 *ここに一通の社員さんからの手紙があります。私の患者さんで初めてうつが回復して   無事に復職している方からのものです。今では私のお守りのようにバックの中にいつ  も入れている手紙です。2年半前には、相当辛いうつでした。家族の方々のフォロー  もしながら、ずっと見守ってきた方です。大切な私の宝物を少しお見せしますね。  「休職中は親身になってお世話いただきまして、本当にありがとうございました。お  蔭様で毎日元気に暮らしております。一時期病状が悪化し、私はなにもかもが嫌に  なった時期もありましたが、先生の力強い助言で温かく見守って下さいましたね。  もうしばらくすると、必ず良くなりますからね、と先生はいつも優しく語りかけて  下さいました。お言葉通り、日増しに体調が回復していった時には、嬉しくて涙が  止まりませんでした。今こうして毎日働けるようになりましたのも、先生のご高診  のお陰に他なりません。」 *私はこの方の言った言葉が今も忘れられません。「普通に眠れて、家族と一緒に食事が  できて、当たり前の生活が出来る、これがどんなに有り難いことか、よくわかりまし  た。」彼の数年前には想像もできなかった、晴々とすっきりとした表情で語った大切な  言葉です。辛いトンネルから見事に出てこれた人の言葉です。聡明で気遣い満点な彼  が立派だったのは、素直に病気と付き合ったことです。不調の波は沢山ありました。  けど、決してあきらめずに踏ん張ってくれました。私と一緒に、です。  今では職場の上司にも自分の思ったことを申し出ていけるようになっています。以前  の彼の認知では考えられなかったことが、本人の努力でできるようになっています。 *こんな患者さん達が、今私の周りにはたくさんいらっしゃいます。  私は臨床現場でこそ鍛えられ、教えられている、と実感しています。  「生きるということは、生活を楽しむことなんですね。ようやくわかったような気が  します。」  「全力疾走でここまで来たんだから、途中でひと休みしたっていいんですよね。」  「朝まで眠れるようになったんです。私にとっては、奇跡なんです。もうそれだけで   身体が軽いんです。眠れないのは、病気なんですね。」  「先生のこのまんまでいいんだよ、で救われました。ここから始めようと思いました。」  現場には本には書いていない、珠玉のいのちの叫びが存在します。  そのひとつひとつがあるからこそ、私はカウンセリングが出来るのかもしれません。  こころは、ゆっくり動いていくものですから。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━