━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          □■□ 学会報告PART2 □■□ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  すざまじい猛暑が続いておりますが、いかがお過ごしですか?  体調など崩していませんでしょうか?  (8月コラムは夏季休暇にてお休みさせて頂きました)     過日7/14・15に日本うつ病学会がありました。  前回の6月に引き続き、学会報告PART2をお伝え致します。  今回が第2回目になる日本うつ病学会総会ですが、毎年とっても現場で為に  なる内容が多く、参加者も医師に限らずコメディカルの方々も沢山参加して、  熱心に勉強されていました。  濃い内容の中でも、私自身がとても感銘を受けたものがありました。  特別講演「私のうつ病診療」と題した名古屋大学名誉教授の笠原嘉先生の講  演でした。  笠原先生といえば、精神神経科、うつ病の第1人者の大教授でいらっしゃい  ます。心理職を志す者であれば、一冊は笠原先生の本を持っているという、  いわばうつの教科書を著する先生です。  私も何冊も勉強していますが、相当数の臨床に裏付けられた諸理論は、うつ  治療の骨子となるものばかりです。  会場で初めてその笠原先生、という人格とお会いすることができました。  正直、今まで出会ったことのない崇高な人格者でいらっしゃいました。  個別に話すことはありませんでしたが、講演中のひとつひとつの言葉づかい  や振る舞いからにじみ出る高尚な人格、に私は終始圧倒されていました。    こんな精神科の先生もいらっしゃるんだ、と。  先生の話を聞いているだけで、患者さんはきっと回復するだろうな、と実感  しました。    1928生まれですから既に77歳という高齢ですが、背筋もピンと伸びか  くしゃくとされていました。現在も外来診療をされているそうです。先生が  うつ病に関しての講演をされた最初が昭和43年だそうです。  産業分野で精神保健の活動をされたのが昭和50年頃だそうですから、日本  のうつ治療の大先生です。でも少しもおごることなく、「こんなふうに存じ  上げます」と丁寧な日本語で講演をして下さいました。  講演内容では、「うつ病は軽症だからといって、早く治せるわけではない。  むしろ軽症だから放置される危険の方が大きい。  私のここ十年の関心は、6〜12ケ月の間に治癒しない慢性軽症うつ病の人  をどう社会復帰させるか、にあった。うつ病は、今後益々軽症慢性型が増え  ることだろう。  私はこの頃、うつ病は軽症でも3年はかかりうる病気、と考えることにして  いる。だから本人だけでなく、家族へのフォローも必要になってくる。」  「うつは、薬が勝手に治してくれると思ってはいけない。医師と患者さんと  の信頼関係があって、初めて治癒していくもの。  うつを治す上で大事なことは、患者さんと同じイメージを共有すること、が  大切なんです。」「うつ病の自殺予防に我々が出来る実行策は何かと言えば、  再発患者の再初診を一人でも多くすることです。  なぜなら、再発時に受診をためらう人は少なくなく、困ったことにその時は  自殺念慮が高く、病識も不十分になり、自殺決行される危険も高いからです。  軽症うつ病も、この時だけは軽症ではないのです。妄想的ですらある。」  「早い段階で、心理的な休息を取らせることが大切。職場から少し離れるこ  とを指導したり、土日は人に会わずにごろ寝を勧めたり。」  最後に私のこころにずっしりと残った教示は、「うつ病とというのは、その  人、人間全体の問題。だから、家族のことも含めて診ていってあげなさい。  うつを治療する者というのは、治らない人の傍らに居る、動じないで居る、  ということが医師の極意です。薬でパッと治すことだけが、医師の役割では  ありません。」    講演を受けていて涙が出た、という経験を、私は初めて体験しました。  笠原教授の足元にも及びませんが、その崇高な人格に接することが出来た者  のひとりとして、志を持って毎日の臨床を続けていこう、と魂に刻んだ日で  した。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━