━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━         □■□ 私の若い親友について □■□ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━        4月新生活がスタートした方々も多いと思いますが、体調はいかがですか?  生活のリズムはできましたか?きっと緊張した毎日と思いますから「疲れた  な」と感じられる正常範囲内に、早めの休息を取って下さいね。セミナーで  いつも話すのですが、五感や疲れたな、眠いな、お腹すいたな、が感覚とし  てある範囲が正常範囲です!過労になってくると、その感じがわからなくな  ったり感じなくなったりするのです。それでも走り続けていくから、悲しい  過労死があるのです。どうか感じられるうちにセルフケアをお願いします。  今月は私の若い親友についてです。私が今年47歳、彼女は19歳。年の差  はありますが、見えない絆で繋がっている大切な親友がいます。  私と彼女との出会いは、ちょうど2年前の平成15年3月5日。私が顧問を  している彼女のお母さんが勤めている会社のカウンセリングルームで初めて  会いました。企業でのカウンセリングをしていると、家族の問題で面談に来  る社員の方々も多くいらっしゃいます。彼女のお母さんもそんなひとりでし  た。可愛い大切な娘がリストカットをしていてほとほと困っている、という  内容でした。  早速そのお嬢さんに面談をしました。入室して席につくと、彼女はじっと私  の顔を見てました。とても警戒している様子でした。と同時に、母親から言  われてきたのでしょう、リストカットをしてきている両腕の洋服を上げ始め  ました。私は、その両腕を見た途端、そのひとつひとつの傷跡が彼女の悲痛  にも似た叫びのように感じ涙が止まりませんでした。「こんなにも」という  程、彼女の外側の両腕には無数のリストカット跡があり、腕の内側も外側ほ  どの深さではなくても、相当数のためらい傷がありました。私は思わず両手  を彼女の両腕の傷に当てていました。外側の傷は相当深くカットされていて、  少女の柔らかな皮膚は既に無く、象のおしりのようなごわごわした分厚い皮  膚になっていました。私は今でもあの時の彼女の腕の感触を忘れることはで  きません。私は、手を当てながらずっと泣いていました。きっと随分と長い  時間だったような気がします。その無言の空間に言葉を発したのは、カウン  セラーの私ではなくて彼女の方でした。「先生は、どうしてリストカットし  たか聞かないんだね」と。彼女は今までリストカットした腕を見せる度に繰  り返されてきた恒例をしない私に質問を投げかけたのです。「今日はいいよ、  話したくなったら言ってみて」と応えました。それから月1回毎の面談を希  望してきました。確か3回目くらいの時に、彼女は理路整然と今までのこと  を話してくれました。とっても聡明な賢い少女でした。友達も親も埋められ  ない寂しさがあってリストカットをし続けてきたこと、死と生について考え  てきたこと、家族のこと、友達のこと、等々。堰を切ったように語り出しま  した。そして彼女は最後に、「ずーっといい子でいて、親の前でも、学校で  も。だから本当の自分がどこにいるのかわからなくなって。リストカットを  して流れる血が好きなの。あのにおいとドロッとした質感。それを見て本当  の私がここに生きてるんだ、って確かめるの」そう彼女は教えてくれました。     あれから2年。去年の夏には初めて半袖を着て来ました。太陽光線にはまだ  まだ痛々しい両腕でした。長袖の方がいいんじゃない?紫外線が痛そうだよ、  と言う私に「もういいんだ先生。隠すのやめたの。私はこの腕をもった私だ  から」ときっぱりと言い放ちました。私の方が戸惑うくらいのさっぱりした  顔で。その間、恋愛ではらはらさせられたり、憂うつ感や不定愁訴で外来受  診を指示したり、一緒に2年を過ごしてきました。リストカットの実行頻度  は、行ったり来たりでしたが、徐々にその数は減っていき、両腕の皮膚は人  間の皮膚らしい真皮が再生し始めてきました。深く刻まれた跡は、若さの威  力で次第にその溝も埋まっていきました。  いよいよ進路を決める時期になった時、彼女は「私、心理学を勉強すること  にした」と決めた進路を報告してくれました。「先生と出会ってそう決めた  の」と。この時程嬉しかったことはありませんでした。元々成績優秀な彼女  は、志望大学を学校推薦で見事に合格を勝ち取ったのです。    この春近況の電話やメールが入ってきましたが、声も元気で大学生活を満喫  している様子が伺えました。本当に嬉しい出来事でした。彼女の洞察力は凄  いものを天性として持っているし、自分がいろいろと逡巡しながら魂の軌跡  を経験しているからきっと相手の心根に響くカウンセラーになると信じてい  ます。私よりもずっと懐の深い先生になれると応援しています。今から将来  が楽しみです。ずっと見守っていこうと思っています、親友として。 毎日毎日カウンセリングをしていると、感じることがひとつあります。それ  は、落ち着く居場所が無い人が多いな、という事です。自分が本当の自分で  居られる安心できる場所、本当の自分を受け入れてくれる人、がいない人達  が多い、と。世の中でたったひとりでいい、本当の自分をわかってくれる人  がいるだけで、人は生きる力が湧いてきます。そんなひとりでありたいな、  と日々思いながらカウンセリングをしています。  少し長いコラムになってしまいましたね。読んで下さってありがとうござい  ました。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━