━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■□■ 学会報告NO.1 ■□■ 第23回 日本産業精神保健学会 「大転換期への対応〜支えてつなげるメンタルヘルス〜」 2016/6/17・18 大阪in KKRホテル大阪 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━   ◇6〜8月のメルマガは、6月の日本産業精神保健学会と8月の日本うつ病学会総会    に出席して、私が聴講した中でストレスチェックに関する内容を申送り致します。     <表記:◎=抄録集全文 ○抄録集抜粋 ・=藤井メモ>  *メインシンポジウム 「ストレスチェック制度における課題と問題点            〜ストレスチェックを有効に活用するために〜」           一般社団法人日本精神科産業医協会 渡辺洋一郎 先生  ◎ストレスチェック制度は有効に機能すれば労働者の健康向上、企業の業績向上をもたら  す制度であるが、同時にさまざまな課題や問題点を含んでいる。  本制度は労働者の「ストレス症状」のチェックではなく、ストレス症状の基になる「スト  レス因子=職場環境」のチェックであり、検査のみならず、医師による面接指導、事業者  の事後措置の3要素が一体のものであることを認識する必要がある。  本制度の課題をあげると、その企画として@労働者が正直に回答できるような体制、枠組  みを確保できるか A高ストレス者と判定された労働者が医師の面接を受けやすい枠組み  にできるか B個人情報が守られ、同時に実施者、実施事務従事者は、事業者に対して守  秘義務が守られるか、といった課題がある。  面接指導に関しては「事業者は医師の意見を聴取し、必要に応じ事後措置をとらねばなら  ない」となっており、その報告書、意見書の持つ責任は大きいが、@本人とのみ、1回の  みの面談から本人も事業者も納得できるような意見書が作成できるのか A本人、事業者  に対する一次予防としての指導が適切になしうるか B面接指導の対象となった労働者の  フォローをいかに行うか、といった重大な課題が存在する。  そして、特に重大な課題が、高ストレス者であるにもかかわらず面接指導を希望しなかっ  た労働者への対処である。面接指導を受けていなくても実施者はその労働者が高ストレス  者であることを知っており、存在が分かっていれば、何らかのフォローが安全配慮義務上  求められる。従って、@面接指導を申し出ない高ストレス者へどのように方法で働きかけ  るか A誰がどのようにしてフォローするか、といった非常に大きな課題がある。  組織分析は職場環境改善に有効であるが、難しい点も多々ある。@分析結果を有用に活用  できるか A組織内で上司と部下との関係が悪化しないか B組織ごとの分析結果が出る  ことにより職場の混乱が生じないか、といった課題がある。  ストレスチェックを外部機関に全面的に依頼する事業場も多いが、その場合、@実施者、  面接指導医師の質の担保は大丈夫か A外部の実施者でそれぞれの企業にあった企画がで  きうるか B外部の面接指導医師は仕事内容、会社の状況が分からないが、適切な事後対  応の判断が可能か C面接指導後もフォローが必須であるが、フォローは誰がするのか   D実施者を外部委託すると、産業医さえも検査結果を知り得ないが、安全配慮義務上の問  題はどうするのか、といった大きな課題が存在する。  このように多くの課題をもった制度であるが導入するからには、ストレスチェックの実施  自体が目的ではなく、ストレスチェック制度を入り口として労働者のメンタルヘルス向上  のための体制作りを構築していく、それは、将来的に労働者の健康と組織の発展につなが  るという観点をもって準備することがポイントと考える。  このように多くの課題をもった制度であるが導入するからには、ストレスチェックの実施  自体が目的ではなく、ストレスチェック制度を入り口として労働者のメンタルヘルス向上  のための体制作りを構築していく、それは、将来的に労働者の健康と組織の発展につなが  るという観点をもって準備することがポイントと考える。    *ランチョンセミナー 「誤解されたままのストレスチェック制度           〜職場におけるうつ病の一次予防のためには〜」    医療法人渡辺クリニック/一般社団法人日本精神科産業医協会 渡辺洋一郎 先生  ◎ストレスチェック制度は、労働者の精神症状をチェックする制度ではない。法文にある  通り「心理的な負担の程度を把握するための検査」である。つまり、症状のもとになる負  担の程度、即ちストレス因子を把握するための検査である。  換言すればストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調の労働者を見つけるための制度  ではなく、メンタルヘルス不調の発生を未然防止し、職場環境の改善を図ることを目標と  した一次予防のための制度である。  このような本制度の本来の趣旨がまだまだ十分に伝わっておらず、一般にはストレス症状  のチェックと考えられている。この制度の本来の趣旨が達成されれば、労働者の健康につ  ながるのみならず、労働者の精神的健康はひいては、企業の業績向上にもつながるもので  ある。ストレスチェック制度の本来の趣旨を考えると、それは現在の職場のメンタルヘル  ス対策、産業精神保健に関わるものに対して大きな課題を投げかけることになる。  我々はうつ病などメンタルヘルス不調に陥ってしまった労働者を見つける、あるいは対処  することにおいては相当な見識と手段を有している。しかし、労働者がメンタルヘルス不  調に陥らないようにするためにはどうしたらよいか、という面においての見識はまだ少な  く、そのための手段も十分持ち合わせていないのではなかろうか。  企業担当者から、「労働者のメンタルヘルスにおける一次予防、人間関係を含む職場環境改  善をお願いします」と依頼されたとき、我々はどれだけの対応ができるだろうか?という  課題である。  うつ病を初めとするメンタルヘルス不調を予防するために、我々産業精神保健を担当する  ものに求められる機能を考えると、1)管理職に対する、人間関係・コミュニケーション  の良い職場環境づくりへの研修と支援。2)労働者のストレスマネージメント能力、労働  意欲を高めるポジティブ心理学的なセルフケア研修と支援。3)労働者の適性を把握し、  パフォーマンスを十分に発揮させる調整能力とスキル。4)労働者、管理職、人事労務ス  タッフ、産業保健スタッフ等労働者を取り巻く関係者全体の精神力動を把握し、調整する  集団心理学的な視点とスキル。5)作業環境管理、作業管理、健康管理といった職場にお  ける労働安全衛生管理の知識、また、労働安全衛生に関する労働法規的知識。6)企業内  関係者、外部支援機関等と守秘義務をわきまえた上で連携をはかるスキル。  ストレスチェック制度が本来の趣旨を果たそうとすれば、産業精神保健に関わるものにと  って、上記のごとく役割と能力が求められることになると考える。  ○高ストレス者の割合は、概ね全体の10%程度としている。   →厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」P40  ○ストレスチェック制度とは、健康管理体制を見直すことであり、労働者のメンタルヘル   スを向上させるための制度である。  ○有効な対策=人間関係とコミュニケーションの改善対策である。  ○ストレス因子の高い人=高ストレス者である。  ○高ストレス者で面接指導を申し出しない人へどう対応していくのか、が問題。   申し出しない人へは、受け皿を作ってフォローすることが重要。   保健師やカウンセラーとの面談を入れる等々。  ○高ストレス者で申し出する人は、・申し出しやすい職場環境にある人・申し出したい理由   がある人・改善して欲しいと思うことがある人、に多く見られる。  ○事後措置をするための面接指導である。  ○面接指導後のフォローもしなくてはならない。  ○ストレスチェックは会社の業績につながる、という事を経営者に知ってもらう事が肝心。   リスクマネジメントと生産性向上につながるのがメンタルヘルス、という事を指導して   いく必要がある。  ○業績向上と社員のメンタルヘルスは、同じベクトルになる。                                       以上