━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━          ◇◆ 産業カウンセリング 最近の傾向 ◆◇ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *産業カウンセラーとして開業以来11年間、平日は毎月訪問する顧問先企業で、日曜  は当方オフィスにてカウンセリングを行ってきました。  その中で、最近は面談内容が変わってきていると実感しています。  職業生活におけるストレスの原因は、厚生労働省調査にもある通り  @職場の人間関係A仕事の質B仕事の量の問題です。  この3大要因は今も根強く現存していますが、ラインケアやセルフケア研修でメン  タルヘルスの基礎知識を周知徹底することで軽減されてきます。  しかし、会社や職場の問題ではないストレスの原因が増え続けているのです。 *先ず、とにかく多いのが 1,プライベートの問題です。  ・夫婦のこと・親や兄弟のこと・家族のうつにどう対応したらいいのか  ・子供のひきこもりや不登校・子供の発達障害について・リストカット・借金問題  ・親の介護・親の認知症について・ストーカー問題・DV問題  ・就労しない成人子供について・結婚しない成人子供について 等々。  上記は今年も1月〜8月までの面談で多かった内容です。  重い現実を抱えたままでは、仕事に集中できる訳がありません。  職域で何の問題も無い場合、私は必ずプライベートで事案を抱えていないかどうか  を伺います。すると必ず「今まで誰にも相談できなかった」と辛い胸の内を話して  下さいます。話すきっかけを待っているんだ、といつも思います。  初回のカウンセリングでどこまで信頼を得て、辛い心の部分に近づいていけるか。  それが早期の問題解決に直結していくのです。 *2,PC世界からの攻撃による疲弊 これも急増しています。  ネットやライン等これだけ通信が進化すると24時間途切れることなく情報が行き  かいます。それは同時に個人への攻撃もエンドレスになったということです。  今春、ひとりの心優しい青年が追い詰められ命を絶ちました。  アットホームな会社職場での問題は何も無く、本人は明日の仕事の用意をきちんと  準備して帰宅していました。心療内科での治療服薬もきちんと継続していました。  問題はその深夜のネットとラインの書込みでした。  その内容は目を覆いたくなる程の人格否定の列記や個人攻撃でした。  バーチャル世界からの執拗な攻撃を、長きに渡り受け続けていたのです。  そのことを私は知りませんでした。  私は彼を守ってあげることができませんでした。  穏やかな彼の遺影を前に、自身の無力さと申し訳なさに只々泣くことしかできませ  んでした。  彼の死を決して無駄にしてはならないと、今では毎日の外来でネットやラインをや  っているのかどうか、どんな仲間と交信しているのかを必ず聞いています。  PCで情報が錯綜する今の社会では、現実の世界だけで命を守ることは不可能です。  子供達だけではなく大人にもネットからの防衛をしていかなくてはならないことを  彼から教わりました。 *3,不安が強い若者には子供の時にいじめを受けてきた人が多い、という事実です。  顧問先企業では、毎年新入社員のカウンセリングを実施しています。  その傾向は、漠然とした不安を抱えている社員が多いということです。  更に幼少時の生育歴を伺うと、強い不安を抱えている若者は学校でいじめを受けて  きた経験のある人が多かったという現実です。  だから対人が怖く、人の目が気になり、過敏が強まり、萎縮して話せなくなってし  まい業務が滞る。そして「適応障害」「抑うつ状態」の診断書に繋がっていくのです。  とても幼く、生徒学生時代で時が止まっているように感じる社員も多くいます。  職場の上司の協力を得ながら話す練習を開始して、対人は怖くないことを知っても  らい、仕事を通じて少しずつ大人にしていく訓練をしています。  今産業現場では、“育てる支援”を強化していかないと業務が回らない現実があるの  です。   *4,がん治療中の社員も多くなっています。  2012/6/8にがん対策基本推進計画が成立し、働く世代へのがん対策が重点課題とな  りました。がん患者の3人に1人は働く世代で罹患しており、医療の進歩でがんは  長くつきあっていく慢性病となり、社会全体で取り組むべき課題となってきました。  がんと診断された時に誰にも相談しなかった人が30%もおり、就労状態も変化して  依願退職が30%と最も多いとの調査報告もあります。  顧問先でも辛く大変な治療を受けながら、治療費のことや仕事のことを心配しなが  ら、再発への不安を抱えている社員が多くいらっしゃいます。  精神腫瘍学という分野もあるように、こころの問題も当然併発します。  今後益々がん患者の相談支援が必要になると思っています。 *産業領域と言えどもカウンセリングの中身は、11年前とは様相が一変しています。  多様な現実の重い課題に的確に対応できるように、最新の知識を習得し研鑽し続け  ていかないと、社会現実に対応出来なくなってしまいます。  過酷な現場で自身の微力さを突き付けられる日々の中で、専門家として何が出来る  のかを真摯に問い続けています。