━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━           ■□■ 家族の“ 力 ”■□■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *うつ病の治療には、@薬物療法→脳の機能不全を治療する A精神療法→ものの見方や  考え方を見直す B環境調整→職場や家族のサポート が必要となります。  その中でも、私は“家族のサポート”が根本になると思っています。 *治療を開始して、処方薬もきちんと服用している。職場環境の整備も行い、業務内容も  見直しをして業務量の軽減措置も取った。主治医との連携も取り情報共有もしている。  でも、なかなか症状が回復していかない。  この場合、家族の人間関係→夫婦関係や親子関係に問題がある場合が多く見られます。   *同じ程度の病状なのに、Aさんは3ケ月位で寛解し復職となり、その後の経過も良好。  でもBさんは同じ時期に寛解となって復職しても、なかなか経過が改善していかない。  この差は、夫婦関係の仲の良し悪しでした。  日常生活で支えとなってくれる家族の、とりわけ夫婦間の仲の良し悪しは、病状の回復  に重大な結果をもたらします。  私は職域でも、家族との面談を数多く行っています。家族療法で日曜外来に来てもらう  こともあります。  Aさんの奥さんと面談をした時、彼女はうつ病をいろいろ勉強して、主治医とも何回も  面会して指導を受け、更に「主人がうつ病になったことで、私達の夫婦関係を見直した  んです」と仰っていました。寛解したAさんは、以前よりも一皮むけたように大人にな  って復職を果たし、経過良好で回復していきました。  Bさんの奥さんとも面談依頼の連絡を取りましたが、「仕事で忙しいから」「治療は主治  医に任せているから」と結局面会は出来ないまま。本人の不調は今も続いています。 *一番心配して支えてくれるのは、やはり家族です。  生活を共にする家族の関係が緊張状態の仲であれば、どんな新薬も業務軽減措置も効果  は半減以下となります。  精神疾患を良くするのも悪くするのも、私は家族の力が絶大だと痛感しています。  だから家族との面談をして、何が根本的な原因なのか、何が生き辛いのか、を一緒に気  づいていくカウンセリングを行っています。 *仕事でストレスになるきっかけはあった。でもそれはきっかけであって、根本的な問題  は家族の仲にもあることを、我々専門家は見逃してはならないと思っています。  毎日一緒に居る家族の人間関係の問題が、精神疾患になったことで露呈したケースを数  多く見てきました。  夫婦間や親子間の根本問題を解決する為に家族が互いに努力をしていかない限り、罹患  した精神疾患はなかなか回復していかないのも真実です。 *また健康なご主人が精神疾患の奥さんに巻き込まれて抑うつ状態やうつ病になるケース。  これも最近多く出会います。 ・奥さんが異常な位に神経質で、些細なことで直ぐ感情的になり、毎日が嵐のような生  活をしているご主人は、「職場も針の上のむしろ、家庭は更に針の上です」「元気があ  る内はいろいろと言い合いもしてきたけれども、今はもう言う元気も無くなって」「職  場に居る時の方がホッとするんです」と言っていました。やがて自律神経失調症とな  り、現在抑うつ状態で治療中です。 ・でき婚で結婚出産となり、何か気に入らないことがあると奥さんは暴れ出し、ご主人  の顔をグーで殴ったり引っ掻いたりの逆DV状態。毎日恐怖生活を強いられ、「働かな  いと妻にやられる」と休日もゆっくり休息も出来ずにうつ病発症。終には妻が包丁を  持ち出して話合いもままならず、ご主人は実家に避難。現在離婚調停中のご夫婦。 ・精神病の妻を「何とかしたい」と本当によくよく面倒を見てきたご主人。病院に入院  させながら、過密な業務の中でも甲斐甲斐しく看病をし続けてきました。が、2週間  の内に2回の自殺未遂をされて、「こころが折れて」とSOSのメールが届きました。  現在抑うつ状態で心療内科通院中です。 *本来気持ちをゆったりとする癒しの場である家庭が、24時間続く闘いの場なのです。  間断に続く生活の場ですから、とんでもない過酷な現場となります。  落ち着く居場所が無くなれば、情緒不安定になるのは当然です。  人が人をうつにさせていく、も真実なのです。  生身の人間ですからいつも仲良くとはなりませんが、家族の言動が大切な人を追い詰め  ていき、こころの病にさせることもあるのです。  「少ししんどいな」と思ったら、「家族であっても少し距離を置いて付き合う」も知恵だ  よ、とアドバイスする時もあります。  『家族も支える』この視点を外してはならない、と自身に言い聞かせながらカウンセリ  ング外来をしています。