━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━      ■□■ 現代型うつ、大丈夫!元気になります ■□■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  *日曜外来でA君と初めて会ったのは、ちょうど一年前でした。  私の研修を聴講した母親と一緒に来たA君は、有名大学の大学院を卒業し公務員になっ た20代後半でしたが、とても幼く学生のような印象でした。  「入職したけど朝が起きられず、遅刻して周囲に迷惑をかけている」息子を心配した母 親が今までの経過を説明している間、彼は少しオドオドしながら聞いていました。   *初診で、理系の大学院へ進んだ理由を聞くと「学問の法則を得られれば、世の中の事を 言語化できるかと思い」「でも自分がやりたい事とのギャップがあり」引きこもり留年。 学内でもカウンセリングを受けていたようです。 最初は警戒していましたが、やがて快活によく話し出し「存在証明が欲しい」「今、やり たいことは無い」「勉強が出来ることが自分のアイデンティティーだったけど、今は無い」 と理論的な話が続きました。 以降の再診では、作り笑顔はあるけど少し暗い表情の時や、しんどそうな声でのキャン セル電話の時もありましたが、律儀に必ずメールや電話で近況をくれました。 *・ニコチン過多への保健指導・より良い会話の方法・就労教育(健康管理も仕事の内、 朝起床出来ない事は欠勤理由にはならない等)・新しい仕事への対応方法をサポートし、 どんな業務量になると負荷と感じるのか、どんな人間関係の状況になると不安に感じる のか、を一緒に分析していきました。 そして、『欠勤はしない』『多少辛くても、仕事をしながら生活リズムを作っていく』を 約束しました。 *大野先生監修の認知療法サイト“うつ・不安ネット”を活用したトレーニングでは、聡 明なA君らしく完璧な記入でした。感心したので「凄いね!」とほめると赤面しながら もとても嬉しそうな表情でした。 ・思い込み・白黒思考・べき思考・先読み・自己批判の傾向が大きい認知を、職場での 事例を共有しながらひとつひとつ具体的な対応策を一緒に考えていきました。 その間には通院している心療内科の主治医へ文書での情報提供を行い、カウンセリング での様子や職場の現況、家族のことや精神療法の進捗を申送りしました。 *半年も経つと、月1回のカウンセリングが心身のチェック日となり余裕も出てきたよう で、自分以外の先輩や同僚の話題も出てきました。  また、身体の不定愁訴も軽減され、勤怠不備も皆無となりました。 *そして、A君のこころの底辺にあったこと。それは、父親との確執でした。 A君が父親のことを話す時は、最初とても憎しみをあらわにして憤り興奮していました。 それが、カウンセリングを経る度に変化していき、1年後には「父親のアルコール量が 最近増えて心配だ」と思いやる言動へ変わっていきました。 *私の20,000人の臨床経験で見えてきたこと⇒現代型うつの家庭背景には、支配的・高 圧的な父親と過保護で共依存している母親がいる、ということです。 正しく、A君の両親もそうでした。 純粋なA君は、両親の期待に応えたい一心で、懸命に勉強して有名大学に入りました。 が、自己肯定感が得られないまま今に至っています。 受験勉強では正解がありますが、社会や生きるということには正解がありません。 親の価値観で作られたレールの上を走ってきたA君は、社会に出て承認欲求を満たす方 法がわからなくなり、自身の存在価値も見えなくなっていました。 *私は、A君の仕事で頑張っていることを心から『ほめて・認めて』些細な事でも成功体 験を積み上げていく大切さを教示していきました。  「今のままでいいんだよ」と励まし、いい所を見える化して、無くしている自信を取り 戻す支援を続けていきました。それは絡まった糸を根気よくほどいていくようでした。 A君がほめて認めてもらいたかったのは、父親からだったかもしれません。 そして1年後の今日、私の目の前にいるA君は、やる気のある聡明で元気な、本心から の笑顔で会話する大人でした。 オーダーメイドのカウンセリングで、現代型のうつは働く元気を取り戻せる! これがA君から教わったことです。