━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━            □■□ 2007 June □■□   〜うつ病の神経症化〜   ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━         *カウンセリングの現場に出ればでる程、自己研鑽は必須項目です。私は資格を  得た後の方が桁違いに本を読破し、寸暇を惜しんでこれはというセミナーには  参加しています。でないと、毎日起こるであろう凄まじい現場には、冷静な正  視眼での対応は不可能だからです。 *購入した本を何回読んでも、その度に真意と勇気を与えてくれる本が沢山あり  ます。ここに私が何度も何度も読んできた本、医学書院出版 春日武彦先生著  書「援助者必携はじめての精神科」があります。春日先生の著書には、いつも  現場のイロハが詰め込まれていて本当にありがたい内容が満載されています。 *現場と照らし合わせてウンウンと実感し納得する内容があります。うつ病の神  経症化、の項目です。少し引用させていただきます。  ○うつ病は改善しても、「治れない」ケース  さて近頃の外来においては、シンプルなうつ病のはずなのに、しかも実際に抗  うつ薬で良いところまで改善しているのに、あと一歩のところでずるずると遷  延してしまうケースが散見される。結局のところ、うつ病としてはおおむね決  着がついているのに、今度は神経症的な訴えが出てきてその結果、メリハリの  つかないままに外来治療が延々と続いてしまうのである。  考えてみれば、「ただのうつ病」であろうと、それによって患者は一時的にで  も人生を足踏みすることになる。すると「世間vs.自分」あるいは「家庭vs.自  分」の関係において、それまでは姑息的に対応したり適当にごまかしてきた問  題が、一挙に目に入ってきてしまうことが珍しくない。ことに世間的には不景  気で、また家庭内においては妻への不満や子供の問題がいぶっており、おまけ  に今までは全力で走ってきたのが病気によって立ち止まり足元を見つめ直すこ  とを余儀なくされてみると、あえて目をつぶってきたはずのものが看過できな  いかたちで決断を迫ってくることに気づいたりしてしまう。そうなると、うつ  病は改善しても自分をとりまく状況はかえってシリアスになっている。そのス  トレスや、さもなければ疾病への逃避から、今度は神経症的訴えがいつまでも  持続することになる。現実へ直面するだけのゆとり(精神的にも状況的にも)が  できない限り、この神経症状態は消失しないだろう。<中略> これもまた、患者にとって「病人であるわたし」という狭い世界にいられる内  は、問題を先送りできるといったプラス面があるからこそなのである。ストレ  スによって種々の症状が生ずる。それは苦しくつらい。が、自分がストレスに  よって病人となっていることを自覚したとき、「わたし」は同情されるべき立  場に立つこととなる。<中略> なまじプラス面があるからこそ、事情はややこしくなる。トータルからすれば  マイナスに傾いてしまうにしても、多少なりともプラス面があるとそこから抜  け出すには相当な精神力が必要となる。苦しいなりに「ストレスに苛まれるわ  たし」なるポジションに安 住してしまいかねない。 *職域でカウンセリングをして心療内科へつなげて治療が開始され、投薬等によ  りうつ病そのものはかなり回復傾向が見られていても、病気になるまでは曖昧  なままになっていた家庭の問題や職場の人間関係等が顕在化してしまい、その  ためにもう一歩のところでいつまでもうつ病が治らない、というケースは毎日  数多く出会います。 *私自身の中には人に対する圧倒的な性善説があり、人は自身が気づく事ができ  れば必ず良い方向で生きていける、があります。でないとカウンセリングとい  う正業は成立しないと感じています。なので、何とか本人に気がついてもらい  たい、と懸命に命の対話を現場で試みるのです。ご自身の考え方の癖に気づい  てもらいたいと認知療法を入れてみたり、あれやこれやと体当たりしています。      *どんなに挑んでみても、中には春日先生のおっしゃるように「狭い世界の住人」  で私はいいんです、という方も多くいます。また、考えの癖を最後まで素直に  受け入れずに自分で望んで心がつらくなる考え方をしている方も沢山います。  さすがの私も、ならもういいか、とへこんでしまいたくなる場面も一杯ありま  す。根気比べの時もありますが、不思議とご本人が気づく方向へしなってきて  くれるのです。春日先生の言われる「曖昧でいい加減なところがあるのが人の  心なのである。だから救いがあるし、アプローチにも意味がある。」のかもし  れません。 *職域においてこころの健康を保つためには、ご本人が疾病を本気で治したいと  思っているのかどうか、本気で職場復帰して働きたいと思っているのかどうか、  が疾病の回復を促す鍵となるように思います。私は現場で必ず確認をしていき  ます。どんなに職場が支援しても本人に治す気持ちや働く意志がない場合には、  結局ご本人が自身で居場所を放棄してしまう結果になりかねません。 *そして、どんな世代の人にとっても大切なのものは、人としての素直さ、なの  かなとこの頃痛感しています。どんなに対立する意見の中でも、相性が合わな  い人間関係の中にあっても、相手が見える余裕を持って柔軟な思考の中で生活  をしていきたいものです。  人はいくつになってもより生き易くより良く変われる、私のこの持論は堅持し  ていきたいと思っています。 ※医学書院出版 春日武彦「援助者必携はじめての精神科」  http://tinyurl.com/2wghep ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━